言葉には、心の思いが表れます。苦悩する方と同じ目線に立ち、同じ方向を見て語れば、真心はきっと通じるものです。励ましに、策や方法は必要ありません
〈紙上セミナー 仏法思想の輝き〉 白樺会副委員長 善浪正子
- 病と闘う友に寄り添う
- 【プロフィル】ぜんなみ・しょうこ 公立の総合病院に看護師として39年勤務した後、がん相談員を務める。1955年(昭和30年)入会。千葉県在住。女性部副本部長。
「がんは、万が一じゃなく二分の一」――これは、がん検診の受診率向上を促すキャッチコピーです。かつては、万が一の備えとしてのがん検診でしたが、今では日本人の2人に1人が、がんになる時代です。悪いことに、コロナ禍の影響で、昨年の受診者は対前年比で30・5%も減少しました(日本対がん協会)。
がん検診を見送るうちに未発見のがんが進行し、治療の選択の幅を狭めてしまいかねません。各検診機関は、国の指針にのっとった感染防止対策が徹底されているので、定期的ながん検診が推奨されています。
また、健康への不安があると、インターネットで検索し、さまざまな情報に触れることで、かえって心配になったり、間違った判断を下したりしてしまう方も増えています。無責任なネットの情報に惑わされないことも大切です。
がん治療は日進月歩。早期発見、早期治療で多くが治る時代です。とはいえ、がんは、日本人の死因のトップで、亡くなる方の約4人に1人を占めていますから、依然として死の影が付きまとうのも事実です。
病気そのものの苦痛を抱えながら、胸が裂かれるような不安を抱く方に、どのような言葉を掛けるべきか――。私も真剣に悩みながら、看護の道を歩んできました。
私は公立病院を定年退職し、一昨年から、がん患者やそのご家族の電話相談に携わっています。これまで、約1500人の相談を受けました。相談件数で最も多いのは「不安などの心の問題」です。相手の顔が見えない分、一言の重みをかみ締めながら言葉を紡いでいます。
がん相談員として従事できるのも、白樺会(女性看護者の集い)で培った経験のおかげです。病と闘う学会員の方々との出会いを重ねるうちに、その方の病状や治療法、悩みや家族の状況などを記した「希望カルテ」を作成するようになりました。それは、寄り添い続けることが自身の使命だと感じたからです。
この「希望カルテ」から、Aさんの闘病体験を紹介します。Aさんと出会った時、Aさんは3度目の卵巣がんが再発し、医師から「これ以上の治療は期待できない」と告げられ、激しく動揺していました。当時、息子さんは中学生。「諦めない。今は死ねない……」と、絞り出すようなAさんの声の響きが忘れられません。
Aさんは、新たな抗がん剤を試すも、病状は一進一退を繰り返しました。検査や治療のたびに連絡を取り合い、希望となることを見つけて、励まし続けました。
がんとの闘いは壮絶でしたが、“妙法と共に生き切る”と決めたAさんの生命力は、驚くほど豊かでした。Aさんからは、“病院のラウンジで、同じ病の方に体験を話してきたよ”“祈ることができてうらやましい、と言われたの”と、喜びの報告が届くのです。
日蓮大聖人は、「南無妙法蓮華経は師子吼の如し・いかなる病さはりをなすべきや」(御書1124ページ)と仰せです。Aさんは、病を人生の妨げとはせず、励ます側にいたのです。
前向きに闘病を続けるAさんご一家に触れ、近隣の壮年が入会。さらにAさんは、遠方で暮らすご両親への長年にわたる祈りが実を結び、ご両親も晴れて御本尊を頂きました。Aさんの信心根本の生き方が、周囲に“真の幸福とは何か”を教えたのだと思います。
Aさんは更賜寿命して、息子さんが成人になるのを見届け、61歳の人生に幕を閉じました。最期まで、はつらつとした心で生き抜いた姿は、私や多くのがん患者の勇気と希望になりました。Aさんのご主人と息子さんの「少しも悔いはありません」との言葉は、彼女の人生勝利を物語るものではないでしょうか。
看護師の道を歩み始めてから、池田先生が白樺の友に贈られた指針「病める人/心の傷ついている人を/私の使命感として/私は堕落させない」を、心に刻んできました。
東日本大震災の被災地では、白樺会の一員として健康相談に加わりました。現地の状況はあまりに厳しく、“何を言っても届かないのでは”と思うほど。そのなかで心掛けたのは、一人一人の生命に具わる力を信じて、声を掛けることでした。
ある時、一人の壮年から、「家族を亡くした方に、どう接すればいいか」と質問が。私は、「無理に励ます必要はありません。抱き合って、会えたことを喜び、一緒に追善の題目を送ってください」と答えるしかありませんでした。
その時、そばにいた方が、「そうです! その通りです!」と立ち上がりました。その方もまた、ご家族を亡くされていたのです。
被災地での経験は、私自身の看護人生にとって大きな節目になりました。価値観や生死観が真正面から問われる場で、創価学会の信仰の奥深さ、人間の強さを学びました。
大聖人は、「言と云うは心の思いを響かして声を顕すを云うなり」(同563ページ)と教えられています。言葉には、心の思いが表れます。苦悩する方と同じ目線に立ち、同じ方向を見て語れば、真心はきっと通じるものです。
励ましに、策や方法は必要ありません。そばにいるだけで安心する存在――そう感じ合える絆を、これからも育んでいきたいと思います。
日蓮大聖人は、すでに定まった寿命でさえも、妙法の功徳力で延ばすことができると仰せです。これを、「更賜寿命」の功徳といいます。
大聖人は御入滅の7カ月前、闘病中の門下・南条時光を救わんと、「鬼神めらめ」(御書1587ページ)と病魔を叱咤し、烈々たる気迫でお手紙を認められました。こう記される直前、大聖人も病で筆を執ることさえ困難な中、全魂を込められたのです。時光は大聖人の渾身の激励に応え、病に打ち勝ち、その後、約50年も寿命を延ばしました。
戸田先生は、“寿命とは生命力を意味する”と言われています。妙法を唱え抜き、旺盛な生命力を引き出して、敢然と病に立ち向かう姿そのものが、信心の偉大な功徳なのです。
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