気候変動など人類的諸課題が立ちはだかるこれからの時代を、自分はどのように生きていくのか。一人一人がどのような生き方をしていくべきかが問われているのです。
【御生誕800年】日本思想史・文化史の第一人者 東北大学大学院 佐藤弘夫教授に聞く㊤ 〈日蓮大聖人御生誕800年記念インタビュー〉 日蓮大聖人の御聖誕800年を迎えた本年も、あとわずか。気候変動やコロナ禍といった未曽有の危機の時代にあって、日本思想史・文化史の第一人者であり、日蓮大聖人の代表的研究者としても著名な東北大学大学院の佐藤弘夫教授は、日蓮仏法の現代的意義をどのように考えているのか。インタビューを上下2回にわたり掲載する。(聞き手=小野顕一、村上進) 民衆が主体性を発揮する中に 立正安国の思想の本質がある 〈日蓮大聖人御聖誕800年という時節を、どう見つめておられますか〉 私は、日蓮が生きた13世紀と現代の様相が、とても似ている印象を受けます。 13世紀は寒冷化が進むなど気候的な変化があった時期ともいわれ、自然災害が頻発し、飢饉や疫病が相次いで発生しました。日蓮が「立正安国論」を著す前の正嘉元年(1257年)には、鎌倉地方を巨大な地震が襲っています。一方、現代に生きる私たちは10年前に東日本大震災を経験し、気候変動やコロナ禍という未曽有の困難に直面しています。どちらも、時代状況が大きく様変わりする中で迎える、一つの節目に当たっているのではないかと思います。 もう一点、指摘できるのは、800年前も現代も、思想が壁に突き当たっている時代であるということです。 日蓮が生まれる前の時代は伝統仏教が国家に定着していたわけですが、それはあくまで国家の権力者のためのもので、一般民衆の生活は視野の外に置かれていました。一方で、12世紀末に法然が始めた専修念仏は、誰にでも実践可能で平等な救済にあずかれるという思想であり、庶民の圧倒的支持を得て爆発的な流行を見せていたのです。 ところが、法然ら浄土教系の祖師たちは理想を来世に求めたため、人々は日常の生活改善には関心を持ちにくくなっていました。そこへ飢餓や災害が次々と襲い、地獄のごとき様相を呈していくのが800年前の状況です。そういった時に日蓮は生まれたのです。 一方で、現代の思想的混乱は何かというと、私は、近代化に伴う人間中心主義に起因するものだと考えています。人間の理性が進化するほどに社会も成長し、理想的な世界が実現するという思考は、徐々に社会から人間以外のものを追放してきました。 気候変動や感染症...